不動産取引におけるクレジット(信用力)の重要性

こんばんは。ノラ鑑定士です。

不動産取引における信用の重要性についての記事です。

信用と言っても「あの人の言っていることは信用できる」という意味ではなく、財務的な信用力、つまり与信(クレジット)の方です。

前者の意味の「信用」も大事です。言っていることがコロコロ変わる人とはスムーズな不動産取引はできません。

与信とは

そもそも与信とは、相手を信用して金銭や物を貸すことです。銀行の融資なんかが代表です。身近なところだとその名の通り、クレジットカードがわかりやすい例です。

クレジットカードで支払うと、一旦カード会社がお店に代金を支払います。1ヶ月後にあなた宛にカード会社から使った分まとめて請求がきます。

クレジットカードはあなたを信用して、お金をしばらく立替えてくれているわけです。カード会社から金銭的な意味でどのくらい信用されているかは、大まかにはショッピングやキャッシングの限度額でわかります。

広い意味では、与信は「取引履行できるだけの財務的な確実性があるか?」という使われかたもします。

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不動産取引におけるクレジットの重要性

与信が重要であることは、不動産に限った話ではありません。ビジネスをする限り必ず売上を立てていかなければならず、その売上を支払ってくれる人が「本当に払える人なのか?」という議論は現金商売でない限り、常に付きまといます。

特に、売上に対して利益率の低い業界(卸とか)では与信管理は生命線です。例えば1億円の売上に対して100万円の利益しか出ない会社だと、仮に売掛金が1億円丸ごと焦げ付いて回収不能になると、取り返すために100億円追加で売上を立てなければならない計算になります。ただし取引先があまりに多い場合は多少の債権の焦げ付きはある意味不可避なので、与信管理においては確率的な対応と債権の保全方法も重要な要素です。

不動産の場合だと1回の取引に伴って動く金額が非常に大きいので、与信を確率的に対応することはできず、確実な履行が求められます。お金を支払う買主や借主の与信にばかり注目がいきがちですが、売主や貸主の与信も取引にあたっては十分注意しなければなりません。

以下、売主・買主・貸主・借主のそれぞれの与信が怪しい場合にざっくり不動産取引がどうなるかについて説明していきます。

1.売買の場合

売買は基本的には代金支払→所有権移転というその場かぎりの取引ですが、それでも与信上の論点はいろいろあります。

①買い手の与信が怪しい場合

よくあるケースです。売買代金本当に払えるの?という当たり前の話になります。このケースだと買い手の取引銀行から融資の実現可能性を説明してもらうなどの手立てを打っていく必要があります。住宅売買の場合などはローン特約をつけることが一般的ではありますが、収益不動産などの場合は、ローン特約は売主及び仲介から嫌われがちです。

②売り手の与信が怪しい場合

買主は不動産の代金を払って、所有権を取得できれば基本的に満足です。ただ、売主の信用力を甘く見ていると、金を払っているのに、物件が手に入らないという恐ろしい事態も十分ありえます。

例えば、お金に困った売主は二重・三重譲渡をして手付をもらいまくってトンズラするみたいなことをする可能性もあります。

他にも契約〜決済の間、更には決済が終わった後でも売主の信用上の問題が起こるとまずい自体になることも十分あります。

売主が破産した場合、破産管財人は「否認権」というとんでもない権利を持っています。細かな要件などは割愛しますが、要するに破産した売主の債権者のために不動産売買・所有権移転を否定できてしまう場合があるということです。他にも民法で勉強する詐害行為取消権なんかも同じような議論です。

また、瑕疵担保責任を追求できる場合でも、売主に資力がなければ何の意味もありません。

ですので、不動産の取得にあたっては売主の売却理由・信用力なども十分精査しなければなりません。

2.賃貸借契約の場合

賃貸借は継続的な取引となりますので、売買の場合よりもさらに中長期的な観点で相手方の信用力を確認しなければなりません。

③借り手の与信が怪しい場合

これもよくあるケースですね。賃料払えるのか?という当然の議論になります。家を借りたことがある人ならわかると思いますが、ほとんどの場合、信用の補完として連帯保証人や保証会社の利用等を求められます。リーマンショックの時に、保証会社が破綻するという笑うに笑えない事件も起きましたが。

また、不動産賃貸借においては、敷金などを貸主に差し入れることが一般的です。敷金は賃料だけでなく、退去時の原状回復費の担保の意味もあります。例えば定期借地権の場合、期間満了で借地権は確定的に終了し、一般的には借地人は土地上の建物を撤去して更地で貸主に返還する義務を負います。極端なケースだと建物取り壊し費用相当額全額を敷金として預け入れるよう主張する貸主もいます。この金額はアパートから退去時のハウスクリーニングなどとは文字通り桁違いの金額です。

④貸し手の与信が怪しい場合

貸し手が破綻した場合、建物賃借権が対抗要件を具備していても、先行する登記済みの抵当権には勝てません。つまり、抵当権が実行されて第三者が落札した場合、落札者から出て行けと言われると賃借人は反論できません。明け渡し猶予期間は設定されますが、事実上追い出される可能性があります。

また特に事業用不動産だと、貸主に預け入れる敷金が多額(6か月以上)になります。貸主が怪しいと本当に敷金返ってくるのかいな?という話になり借りてもらえません。場合によっては借主から「敷金返還請求権に対して抵当権を設定させてくれ」という主張が来て、なんのために預けるのだかよく分からない話になったりします。

まとめ

取引の相手方の財務状況は十分確認した上で、取引の可否を判断しましょう!一般的には相手方が困っている状況では有利な条件で交渉できますが、上記のようなリスクも十分あります。リスクとリターンが見合うのか?という判断が求められます。

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