こんばんは。ノラ鑑定士です。
業界の裏側を少し覗いてみようということで、なぜ不動産会社がリートを作りたがるのか?という非常にニッチな内容を考察してみたいと思います。金融商品を作る側の立場で考えてみるとまた違った世界が見えてきます。
リート(REIT)の制度概要
リートとは集めてきたお金を収益不動産に投資し、利益を投資家に還元する仕組みで、ざっくり言うと上場大家会社みたいなものです。リートに投資すると言うのはこの大家の株を買うようなものです。
ただ、リート自体はペーパーカンパニーです。収益不動産を保有する箱でしかないです。
リートの運用は基本的にはAM(アセットマネジメント)会社に一任されます。
このAMが実際にどの物件をいくらで買うか、保有物件の期中管理、さらには物件の売却まで意思判断します。リートのパフォーマンスはAMの手腕にかかっています。
そしてリートの手綱を握っているAM会社の株主こそが、それぞれのリートの「スポンサー」と呼ばれる会社であり、スポンサー主導でリートは作られるのです。
例えば、NBF(8951)だとこんな感じです。
リート名:日本ビルファンド投資法人
AM:日本ビルファンドマネジメント株式会社
スポンサー:三井不動産ほか
リートはいろいろな種類のものがいっぱいありますが、そのスポンサーのほとんど不動産会社です(たまに金融機関が混ざってたりはします)。
※リートの制度の詳細はリート(J-REIT)投資のメリット・デメリット 〜現物不動産投資との比較〜もご覧ください!
なぜ不動産会社はリートを作るのか?
不動産会社がリートを作る目的は大きく2つかと思います。
①フィーの獲得
AMにはリートから運用報酬が支払われています。AM会社の利益が上がれば、最終的には当然株主たるスポンサーの利益となります。
AM以外にもスポンサー系列の会社がリート保有物件のPM(プロパティマネジメント)やML(マスターリース)を請け負うことも多いですね。スポンサーは物件を保有しなくても日銭を稼げます。
ただし、これらのフィーはそこまで大きいものではないため、不動産会社がこぞってリートを作りたがるメインの理由ではありません。
②出口(物件売却先)の確保
物件売却の相手方確保こそがリートを作りたがる最大の理由です。
賃料収入は地味?
不動産会社がスピード感を持って成長していくには、開発した物件の売却が不可欠です。賃料でコツコツ利益を上げて、純資産を積み上げると時間がかかって仕方ありません。
例えば、とあるデベロッパーが土地を仕込んで開発した物件があるとします。
総投資額は10億円、一方その物件の時価は12億円とします。(差額は開発リスクを取り、運営ノウハウを注ぎ込んだデベロッパーの正当な利益です)
この物件のキャシュフローが年間6千万だとします。
そうすると、賃料収入で総投資額を回収するのに15年(10億円÷6000万円)以上かかります。時価が変わらないとすれば、開発リスクに対するリターンまで回収するのに20年も経ってしまいます。
20年ものんびり待っているくらいだった今すぐ売って時価の12億円を一瞬で回収し、リターンを確定しまおう。そのお金で次の案件の投資に向かい、開発リスクを取り、その果実をまた手に入れよう。と考えるのがデベロッパーの基本姿勢です。
資金調達には限界あり
物件を売らなくても何らかの資金調達をすればスピーディーに成長できるのでは?という考え方もあるかもしれません。
簡単なのは借入金を活用することですが、負債比率が大きくなりすぎると、財務の安全性が確保されていないと銀行が貸し出しを拒否します。賃料でコツコツ利益を積み上げていると借入金の増加に純資産の増加が追いつけません。
かといって事業法人の 増資もそう簡単ではありません。持ち分の希薄化やROEの低下などを理由に、よほどお金の使い道が美しくない限り(≒明確な成長を示せる)、増資はマーケットでは嫌われる傾向があり、株価がガツンと下がります。
※REITはバンバン増資しますが、こちらは綺麗なエクイティストーリーを作りやすいので歓迎されることも多く、むしろ株価が上昇することもあります。理由はまたどこかで
数年前に三井不動産が増資した時は結構衝撃でしたね。確か増資の主な目的は財務安定性の確保や開発中案件の資金へ充当だったかと思います。やはり発表直後は株価が大幅に下がりました。
まとめると、デット・エクイティファイナンスに限界がある以上、不動産会社は開発物件の売却をしょっちゅう行い、投資回収のタイミングを前倒しすることでしか素早く成長できないのです。
不動産会社とリートの関係は健全か?
前置きが長くなりましたが、デベロッパーにとって、自分たちがスポンサーを務めるリートは絶好の出口(売却先)となり、自社の成長の源泉となりうるのです。
リートの物件取得を実際に判断するAMの株主は自社、社長は自社から出向者(のことが多い)です。「思い通りに動かせる」とまではいかないものの、それに近い状態にはできます。
利益相反(コンフリクト)の塊じゃないか?と思ったあなたは鋭いです。全くその通りです笑。
リートからすれば物件を安く買いたいし、スポンサーからすれば高く売りたい。リートのAMがリートのためではなく、スポンサーの方を向いて仕事をすれば、リートの投資家するとたまったものではありません。実際そんな物件そんな利回りで買うの?的な取引はたまにあります。そういう取引が多いリートは業界界隈からは「ゴミ箱」と呼ばれます。
ただしリート側からすればスポンサーが「時価」以下で売ってくれるのであれば、わざわざ他の入札物件で頑張らなくても適正な利回りで新規物件を確保できますし、投資主にも説明はつきます。
逆にデベロッパーからしても、多少高く買ってくれる一見の客に売るよりは、継続的に取引できるリートに売ってしまった方が色々楽で安全です。さらに系列のリートであれば前述のMLやPMを継続できる可能性も高く、全くの第三者に売ってしまうより最終的に利益を極大化できる可能性があります。
なので、うまくやれば不動産会社とリート双方が満足出来る取引を実現できる可能性は十分あるのです。
※ちなみにREITでは利益相反を管理し、不当な取引条件ではないかをチェックするガバナンス機能がちゃんと(一応?)確保されています。
新丸の内ビルはリートに必要か?
不動産会社はリートをいいように使っているだけだ、自社の旗艦物件をリートに譲らないじゃないかなどの批判がされることもありますが、リートからしたら譲られても困ります。
例えば三菱地所にとって名実ともにフラッグシップである「新丸の内ビル」を仮に同社がメインスポンサーを務めるジャパンリアルエステイト投資法人に売ったら、取引利回りは想像もつきません。記事作成時のマーケット環境(2017年3月)であれば3%切りは固いでしょう。もしかしたら2%切るかもしれません。
そんな物件を増資なんかで買われた日にはREITの一口当たりの配当金が大幅に下がります。4〜5%のほどほどの物件をいっぱい買う方がよっぽど投資主の利益に適います。
リートには必ずしもピカピカのSクラスビルは必要ないのです。
まとめ
不動産会社は自社の成長のためにREITを活用していますが、基本的には両者はwin-winの関係を目指していますし、多くの取引がそれを体現しています。しかしそれでもなお、売主たるスポンサーの都合が前面にくる取引はゼロとは言い切れません。
注意しましょうというのは簡単ですが、実際にそれをプレスリリースから見抜くには高度な相場観と不動産・財務知識が要求されます。
あからさまでえげつない取引は少ないのでそんなリスクもあるのだなと割り切って投資するのが現実的な対応です。