不動産鑑定士の仕事を増やすためには

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不動産鑑定士は減っている

不動産鑑定士試験の受験生が減っているようです。それに伴って新規供給の減った鑑定士業界の高齢化も進んでいます。最近では国土交通省も大分危機感を抱いているようで、試験制度の見直しや、各種PR活動に積極的に取り組んでいるようです。(試験が簡単になると聞いて妬みに近い感情も抱いています笑)

ほぼペーパーとはいえ、一応鑑定士資格を持っている人間としては、鑑定業界が成長・反映することを心から願ってやみませんが、「どうやったら業界が発展するか?」と聞かれればなかなか答えを出せないなと思ってしまいます。

現在は鑑定評価の対象外となっている農地も評価できるようにしようとする動きがあるようですが、「小規模農地の集約化による効率化」という社会的課題は鑑定業界が変わったからといって進むべき性質のものではないと思いますし、そんなに鑑定業務への需要が増えるとも思いません。農地問題についてどうせ法律をいじるのであれば、農地法を変えてしまうのが手っ取り早いですし、いかに会社組織に大規模資本を農業へ投下させるかと言うしくみづくりの方がよっぽど効果的だと思います。

話がそれましたが、鑑定士が減っている背景にはそもそも鑑定を必要とする需要が少ないということがあるのは間違いないと思います。(需要が少ない→既存の供給で足りる→業界の利益が魅力的でない)

いつ不動産鑑定は必要とされるのか?

不動産鑑定士の仕事は一言でいうと「不動産の価値*を評価すること」です。

*不動産の価値には価格以外に賃料も含まれます。

鑑定業務とは要するに権威付けであり、お墨付きを与えることが仕事です。そのため不動産鑑定が必要となるシーンは主に以下のようなものです。

・公的評価

地価公示や路線価、競売や土地収用時の価格算定など

・財務関連

会社買収、減損会計、賃貸等不動産の時価開示、現物出資(よくもめます)など

・証券化

リートなどは物件を買うときに鑑定評価の取得がマストです。多くのリートは鑑定評価額以下の金額でしか物件を変えないようになっています。要するに高値買いしないようにという投資家保護です。また、リートはIRの観点から定期的に保有物件の鑑定評価を実施しています。

逆にいうと、お墨付きが不要なら鑑定も不要です。なんとなく不動産の時価を知りたいだけなら、わざわざお金を払って評価書を取らなくても、仲介業者にでも査定依頼すればいいのです。ちなみに、多くの不動産取引は鑑定など置き去りにして価格、諸条件が決まります。上記の証券化に関する鑑定も実際は、当事者が合意した価格水準の追認と言ったところです。

鑑定業界全体の需要を増やしていくには、不動産価格のお墨付きが必要な場面を自ら社会に提案・定着させていくということが必要で、そのためには、業界全体に社会を見通す力だけではなく、政治力も求められます。

ちなみに、不動産の価格は単純に考えられがちですが、実際には両当事者の協議による契約条件次第で同じ物件でも価格が全然異なることがありえます。例えば売主が瑕疵担保責任を負担するのか?というのは外から見える売買価格では確認できません。理屈でいえば売主が瑕疵担保を負担してくれれば買主のリスクが減ることから価格は上昇します。鑑定評価では「一般的な取引条件」を想定していますが、素地で・収益物件で・事業用物件で・住宅でどのような条件が一般的か?各条件がどの程度価格に影響があるか?を即答できる鑑定士は少ないと思います。(私はできません)

鑑定業務は差別化が難しい

ここからは業界全体の話から離れて、個々の鑑定士の話です。

鑑定業界は非常に差別化が難しい業界です。発注する立場からすると鑑定業者に対して求めることは

①鑑定士のはんこのついた鑑定評価書を安く、早く発行してくれること

②自分の思うような評価額を出してくれること

この2点に尽きると思います。例えば証券化の鑑定はそんな簡単じゃないという意見なんかもあるかもしれませんが、できる鑑定業者が複数いれば結局価格競争です。

②は公正中立的な観点からいかがなものかと思いますが、発注者からすると資格のある鑑定士であれば誰でもいいんです。適当な鑑定評価書を出して怒られるのは発注者ではなく、鑑定士です。

実際②を防ぐために「依頼者プレッシャー通報制度」なるものも鑑定業界にはあります。要するに発注者から鑑定評価額に対する不当な圧力があった場合、役所に言ってねという制度です。逆にいうと②の事象が存在するからこそこのような制度が成立するわけです。

②がクリアになったところで、結局のところ、この業界は価格勝負にならざるをえない性質を持っています。

結局必要なのは営業マインド

身も蓋もない結論ですね笑。

資格だけで食えていける時代は鑑定士に限らず終わったと思っています。持っている知識・ノウハウを活用してどういった顧客にどうやってアプローチするのか?安さ以外のどういった付加価値を提供できるのか?この辺りを常に考え、動かなければ、せっかくの長時間勉強も無意味になってしまうのだろうなと思います。

例えば、不動産鑑定を高い精度でできることを前提に、

「スピードでは負けない」(本業に集中)

「不動産仲介取引につなげる」(派生収益狙い)

「既存客から新規顧客を紹介してもらう」(人間的魅力で顧客開拓)

と言ったように、評価書にはんこを押す以外に何ができるのだろうか?ということを常に考えていけば、活躍のフィールドは広がっていくのだろうと思います。鑑定士取得を志す人は是非価格競争に巻き込まれない自分の強みの発揮の仕方を考えてみてください。

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