FPとか宅建試験にも関係ある、不動産の投資利回りの話です。
収益不動産のチラシにはよく表面利回り(グロス)とか実質利回り(ネット)とかの記載がされています。どちらもその不動産の収益性(とリスク)を示すものです。でも広告を見て預金金利と比べるとものすごく儲かるな〜と思った人は要注意です。そんな単純な話ではないです。
※個人的にはグロス・ネットという言葉の方がなじみが深いので以下ではそちらを使っていきます。
グロス利回り・ネット利回りとは
それぞれの利回りの意味はだいたいこんな感じです。人によって違うこともあるのでご注意ください。
グロス(表面)利回り:収入÷価格
メリット:計算が簡単(費用の資料がなくてもやれる)
ネット(実質)利回り 純収入÷価格 ※純収入=収入-費用
メリット:費用まで勘案したその不動産の本当の収益性がわかる
意味解釈としては、この数字が高いほど、収益性が高い物件と言えます。ただし、それだけの利回りを提供できないと買主がつかない人気のない(リスクの高い)物件とも言えます。銀座のように人気がある街だとものすごく低い利回りで不動産が取引されています。
上記の計算式だけ見ると人によってぶれることはなく、明快な定義のように見えますが実は落とし穴だらけです。
・収入って何ですか?
・費用って何ですか?
・価格って何ですか?
それぞれの落とし穴を説明していきます。
利回り計算における収入の落とし穴
①満室想定
まず、利回り計算に使われている収入はだいたい満室想定です。売るほうはなるべく物件をよく見せたいですからね。しかし本当に空室を全部埋められる物件なのでしょうか。例えば過去数年間の稼働実績がずっと半分程度の物件を満室にするのは結構大変なことです。もちろん売主がなまけているせいでそうなっているのであれば改善の余地はあるかもしれませんが、買った後も5割の稼働率が続くのであれば、収入は想定していたものの半分になってしまいます。そうでなくても満室稼働していることの方が実はイレギュラーだと思った方がいいです。賃貸マンションだと入れ替わりで恒常的に空室が発生しています。いいとこ95%が巡行の稼働率です。
②想定賃料
空室部分の想定賃料も議論があります。最近は新築賃貸マンションの竣工前の売却物件が多くあります。当然誰も入居していませんので、収入は全て「売主が考えた」家賃に基づいて計算されています。売主は売ってしまえば、その後の入居状況には全く責任を持ちません。高く売るために売主の想定賃料が相場よりも1〜2割高い物件なんかいくらでもあります。当然その物件を買っても想定賃料でテナントは埋まりません。
③相場賃料との乖離
じゃあ満室稼働している物件ならば安心かといえばそれも違います。今の入居者が何らかの理由で相場より高い賃料を払っているのであれば、その人が退去するとその後の収入は減ります。例えばファンドとかREITとかの仕組みもの系は鑑定評価額を高く出すためや、金融機関とのお約束、さらには同じ物件の他テナントから賃料減額請求が出ないように額面賃料を死守しに来ることが多いです。それがたとえ相場家賃より高くても。その代わり入居者にはフリーレント(一定期間の賃料免除)を提供し、実質的な賃料を下げて入居してもらうようなことは多々あります。市況が悪い時のオフィスなんかだと5年間の契約期間で1年間無料みたいなえげつない話もあります。この物件の実力ベースの賃料は現況収入の8割ということになってしまいます。
要するに自分自身で周辺の賃貸相場(賃料水準・稼働水準)と物件の実力は十分に調べないといけないです。
利回り計算における費用の落とし穴
不動産投資にかかる費用項目は大体こんな感じです。
・維持管理費
・修繕費
・固定資産税、都市計画税
・火災保険料
・貸し倒れ
細かく説明するとそれだけで本が1冊できてしまうので、大きな論点のみ説明していきます。
維持管理費
売主が自分自身で維持管理(賃貸管理、建物管理など)をやっている場合があります(自主管理)。この場合、ネット利回りの計算において維持管理費が算入されていない場合があります。維持管理費はざっくり賃料の5〜10%程度なので、これが算入されるだけで利回りが1割落ちる計算になります。
ちなみに維持管理費が高いからといってをあまりケチると物件の価値は簡単落ちます。簡単なところだと掃除の頻度が低い、ゴミだらけの物件とか誰も入居したくないですよね。オーバースペックにならない物件のグレードに応じた適度な維持管理が大事です。
修繕費
建物は築年が経過すると徐々に傷んでいきます。物件の競争力を維持するため、建物の物理的な安全を確保するために定期的な修繕は不可欠です。例えば建物設備関連は10〜15年ごとに交換の時期を迎えるものが多いです。売主が適当だったりすると必要な修繕がされていなくて、買った瞬間から色々直さなきゃいけない羽目に陥ることもあります。また、修繕の内容によっては、莫大な金額が必要となることもあります。売主が作ったネット利回りの数字に将来的に必要な修繕費が織り込まれているケースはあまり多くありません。
今までどんな修繕がなされてきたのか、今後「いつ頃」、「何を」、「どの程度」修繕しなければならなくなるのかを押さえて、場合によっては資金をプールをしておく必要があります。
貸し倒れ
要するにテナントが賃料を滞納することです。契約違反でさっさと追い出されば楽ですが、借地借家法で守られているのでそう簡単ではありません。さらにテナントが破産なんかするとさらに面倒なことになります。賃料は入ってこないわ、手間はかかるわとろくなことがないです。今のテナントが滞納実績がないか等十分確認してください。
利回り計算における価格の落とし穴
消費税
利回り計算のための価格が税抜表示か税込表示かを確認してください。もちろん税抜表示の方が利回りは高く出ます。一般に郊外・地方に行くほど不動産価格に占める建物割合が大きくなります。そんな物件では税抜ベースか税込ベースかで利回りが大きく変わってきます。
諸経費
取得時の仲介手数料や登録免許税、不動産取得税などは一般に利回り計算に算入されていません。これらを考慮すると当然利回りは悪くなります。しかもそんなに安いものではないです。物件価格の10%近くなると思います。
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まとめ
今までの内容は売主当てにこれらを使って安く買えるように交渉しろという話ではありません。売主がプロであればあるほどわかっていて売っています。「嫌なら買うな」で終わります。これらのリスクを飲み込んでくれる買主に希望価格で売ります。不動産の売主は(お金に困っていなければ)立場が非常に強いんです。
要するにグロスであれ、ネットであれ不動産投資における利回りは「なんらかの収入÷なんらかの価格」という投資の入口段階における割り算でしかないんです。買主の心構えとして、見た目の数字ほど儲からないし、リスクも色々あると覚えて欲しいというのが本日の結論です。
ちなみに私は不動産投資推奨派です。現在は居住用マンションを保有しているだけ(これも近い将来売ることを想定しているので広い意味で不動産投資)ですが、タイミングが整えば始めようと考えています。ただし、実務を通じて不動産のリスクも身にしみています。みなさん始められる際は自分自身で色々情報収集して十分準備してください。
じゃあ不動産投資は本当はどれだけリターンが得られるのかと言う議論はまた今度(不動産投資のキャッシュフローができるまで)。